『読売新聞』
イタリア美術1945〜1995 「二重のベクトル」
今井瑾郎 執筆
ミケランジェロ・ピストレット

 鏡が示すイメージとそこに描かれたイメージ、その虚実は鏡の表面を通して二重のベクトルの関係にあり、ピストレットの芸術はそこにある。
 まだ私が10代のころ、鏡面のステンレスに拳銃を持った手だけをプリントした作品に出合った。標的はいったい何なのか。だれかが狙われていることだけは確かである。そして、次に銃を見た人だけが確実に狙われてことを知った時、恐怖のなかに硬直した現実を意識した。タナトス(死)の空間が支配した絵画と直面したのだ。
 そして、それは同じミケランジェロの名で、アントニオーニ監督の「欲望」という映画を思い出させる。事件が存在したのかも結局なにもわからないままの主人公は、パントマイムのボールを返球する。そんなラストシーンに拳銃のイメージが重複した時、現代を背景にカオス(混沌)としての虚構性をみる。
 ピストレットの銃口はいまも無時間の記憶のうちに自らに向けられている。













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送