『毎日新聞』
視覚の本質的世界へ  その原理的側面を挑発
                 美術評論家・三頭谷鷹史 執筆


 知覚の一領域である「見る」というこうい。私たちはこの「見る」ことの本質を十分に知っているのだろうか。名古屋市内中区錦の桜画廊で開催されている今井瑾郎展は「見る」こと、そのもっとも原理的な側面を挑発する。
 黒塗りの鉄板が立体的に構成された展覧会場。二方向から水銀灯の照明があてられているので、くうかんを光が流れ、壁や床には鉄板の影がさまざまに映しだされている。影は明瞭で鋭く映し出された部分、おぼろな部分など、それらが入り組んでいて複雑である。
 光と影によって画廊の壁や床、そして空間の全体が変容し、私たちの目は少なからず混乱させられる。実体としての鉄板、壁や床。虚像である影、さらに光そのもの。「見る」という行為の主体である私たちの目は、実体と虚像の間をさまよい、視覚の混乱を体験しながら、あらためて空間を見つめ直すわけである。
 日常の中で当然のように受け入れられている「見る」こと、視覚の秩序。今井は影のいう独自の方法によって、日常からの連続を断ち切り、視覚の本質的世界への入り口を開く。それは視覚領域における思索、思想的高みをもった作業だとも言えそうだ。
 今井は1974年生まれ、名古屋市在住。昭和59年度名古屋市芸術奨励賞を受賞、今回は受賞後では初の個展である。ドローイングも多数出品。7月6日まで。








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